第1697回 ラーメン光圀
2011年04月20日
先日、ラーメンに関する話題に触れた際、日本で最初にラーメンを食べた人は水戸光圀公だと記載しました。1659年(万治2年)に明より亡命した儒学者、朱舜水の所持品の中にラーメンを作るために使われる道具が含まれていた事や、亡命後、朱舜水が水戸藩に招かれている事から中国の麺料理を献上したと考えられています。
光圀公が日本史の編纂に関する助言を得るために朱舜水を招いたのは1665年の事とする説もある事から、1659年または1665年のいずれかに光圀公がラーメンを食べた可能性は充分に考えられるのですが、正式な記録が残されておらず確たるものとする事ができません。
ラーメンが食べられたという正式な記録が登場するのは、1697年(元禄10年)の事で、光圀公の隠居所であった西山荘を訪れた僧侶や家臣達に中国の珍味として麺料理がふるまわれたという記載が残されています。今回、このコラムが1697回を迎えたので、1697繋がりで光圀公のラーメンについて触れてみる事にしました。
光圀公のラーメンの特徴の一つとして、麺にレンコンの粉末が練り込まれています。レンコンには野菜としては珍しくビタミンB12が豊富に含まれていて、肝臓の働きを助けてくれたり、ビタミンCや鉄分も多い事から相乗効果によって「古血を散らし、病後の渇きを止め、産後のうっ血を治す」といわれた薬効を持つ事や、滋養強壮に役立つとされていた事から、麺に練り込む事で単に珍味としての食べ物というだけでなく、薬膳的な意味合いもあった事が伺えます。
レンコンは繊維が多いだけでなくデンプンも多い事から、麺に独自のモチモチ感を出してくれ、美味しい麺となった事が考えられます。平打ち麺に仕上げられていた事から、ラーメンの語源の一つとも言われる中国語の「引っ張って伸ばす」という意味の言葉、「拉(らー)」による麺ではなかった事が伺えます。
中国のハムともいえる塩漬けの豚の腿肉が使われ、塩が味付けの基本となっていた事から、現在でいうところの塩ラーメンであったとも考える事ができ、薬味として胡椒が使われた事や、五辛と称したショウガ、ニンニク、ニラ、ネギ、ラッキョウを必ず添えるように勧めていた事から、本格的なラーメンであったといえます。
普段から光圀公は麺好きであったとされ、自らうどんを打つほどであったとされます。朱舜水によって麺作りを教わった光圀公が自ら麺作りを行った事は充分に考えられ、記録に残る1697年6月16日にふるまわれたラーメンが光圀公によって打たれた物かは確認する事ができませんが、「こちらのお方をどなたと心得る、日本で最初にラーメンを食べたお方なるぞ!」といわれると、思わずひれ伏してしまうかもしれないと思っています。
第1696回 生涯成長
2011年04月19日
すでに成長とは縁遠い私ですが、それでも日々成長ホルモンは分泌されています。成長ホルモンは文字通り成長に関わるホルモンであり、脳下垂体前葉の分泌細胞から分泌される191個のアミノ酸からなるタンパク質で、幼児期には骨端の軟骨細胞の分裂や増殖を促して骨を伸ばす働きを持っています。
特定のアミノ酸が筋肉に取り込まれるように促し、タンパク質合成を行わせて筋肉を成長させるという働きも司っているので、成長ホルモン抜きでは大人になれない事は理解できるのですが、大人になってからも成長ホルモンが分泌され続ける事については、成長ホルモンが単純に成長を促すだけでなく、多くの代謝機能に関わっている事によります。
三大栄養素である炭水化物、タンパク質、脂質をエネルギーに変える事にも成長ホルモンは関わっていて、体内での重要なエネルギー生産の促進や、肝臓に蓄えられたグリコーゲンの分解を促し、インシュリンの働きを抑制して血糖値を上昇させて一定に保つ働き、血液中のカルシウム濃度を一定に保つなど、生命を維持していく上で重要な働きを多く担っています。
また、体がエネルギー不足に陥った際、脂肪細胞から遊離脂肪酸を放出させてエネルギーを生産する指令に関わるホルモンでもある事から、最近ではダイエットや組織の再生にも関係しているので、アンチエイジングという点からも注目が集まってきています。
ダイエットやアンチエイジングに有効となると、急に気になってくる成長ホルモンですが、盛んに分泌されるのは夜間の睡眠中とされ、主に夜の10時から夜中に2時頃が最も多く分泌されます。
昔から「寝る子は育つ」と言われますが、良い子は寝ている時間に成長ホルモンの分泌が多く、その時間にリラックスして眠っている事が大切となると、昔からの言い伝えの正しさを思ってしまいます。穀物に多く含まれるアミノ酸のアルギニンを多く摂る事で成長ホルモンの分泌を円滑に行える事から、節分の豆まきの際、無病息災を願って年の数だけ大豆を食べる事にも納得してしまいます。
生涯を通して健やかな生活を守るために欠かせない存在として成長ホルモンがある事を思うと、人は生涯を通して成長を続けなければならないのだと改めて思ってしまいます。
第1695回 毎晩の作業
2011年04月18日
一説には日本人の4人に1人が、「充分な睡眠がとれていないから、体がいつも疲れている」と睡眠不足を実感していると言います。充分な睡眠時間が確保できない、時間的には充分でも睡眠自体の質が良くないといった悩みを持つ人は、4人に1人くらいではないと思えます。
よく知られている事ですが、睡眠中はレム睡眠とノンレム睡眠の状態を繰り返しています。レム睡眠は眠りが浅く、筋肉がほぼ完全に緩んだ状態で、脳が起きている状態にある事から、体を休ませるための眠りとされます。
眠りは脳波の状態から4段階に深さが分けられ、ノンレム睡眠は第2段階よりも深い眠りの状態で、第3段階と第4段階では脳がリラックスするδ波が見られます。最も深い第4段階の眠りではδ波が全体の50%近くを占めている事から、脳はぐっすりと眠り、逆に体は寝返りをうったり歯軋りをしたり、いびきをかくなど起きて活動的な状態にあります。
レム睡眠とノンレム睡眠は進化の過程で獲得したと考えられ、魚類や両生類には見られず、爬虫類になって初めて似たような睡眠状態がある事が確認されています。鳥類、哺乳類では明らかなレム睡眠とノンレム睡眠が見られ、眠りという人の人生の約3分の1を費やす現象の解明に繋がる糸口と考えられています。
ノンレム睡眠の役割は、高度に進化した脳の疲労を回復させる事が考えられ、昼間のうちに膨大な情報に接し、その処理に必要な集中力を確保する事が必要であり、そのための必要性から生じたのがノンレム睡眠と考えられます。
また、脳は筋肉に比べて10倍近いという莫大なエネルギーを消費してしまう事から、エネルギーを節約する意味においても脳を休ませるノンレム睡眠が発生したという考え方もあります。
睡眠に着くと一気に眠りは深まり、ノンレム睡眠の状態へと入っていきます。一時間半ほどのノンレム睡眠の後、5分程度のレム睡眠に入り、基本的にはそのサイクルを繰り返しながら睡眠が継続されるのですが、ノンレム睡眠は繰り返すごとに深さが浅くなり、レム睡眠は長さが増していきます。
繰り返しながら一回の長さが増していくレム睡眠ですが、睡眠時間が8時間確保できたとしても延べ時間では1時間程度しかなく、一日の中でも大きな時間が割かれる睡眠が脳のために必要な時間である事が判ります。
体を休めるためと考えられているレム睡眠ですが、その間に脳は起きているうちに得た膨大な情報を、一時的な記憶から長期的に固定化する作業を行っていて、レム睡眠も脳にとって大事な時間であるといえます。
多種多様な情報の中から後々のために残しておくべきものと、一時的な事として忘れてしまっても良いものを仕分けして固定化するため、起きているうちに得る情報量が多くなればサム睡眠の時間も増える事が確認されています。
生まれたばかりでこれからのために覚えなければならない事が大量にある新生児の場合、睡眠時間の半分がレム睡眠で占められていて、結果的に体を休ませてはいますがレム睡眠も脳に必要な眠りであると考える事ができ、睡眠とは脳の疲労を除いて新たな情報を得るための集中力を確保し、得られた情報を仕分けして必要なものを固定化するための時間であるといえます。毎日、多くの時間を費やす睡眠ですが、その間に行われる事の重要さを思うと時間と質の確保の大切さを思ってしまいます。
第1694回 不足元素
2011年04月15日
食が手軽で便利になった反面、栄養の偏りや不足が言われるようになり、不足している栄養素としてミネラル類が上げられる事も珍しくはありません。ミネラル類の中にはナトリウムのように過剰に摂取しているとして問題視される物もありますが、カルシウム、カリウム、鉄分などのように、不足して起こる健康上の不具合も日常的に耳にします。
人の体は約95%が炭素、水素、窒素、酸素といった4つの元素で構成され、残りの5%を構成する16種類の元素がミネラル類で、生命活動を維持する上で欠かせない物となっています。
ミネラル類の特徴として、微量ではあっても体内で重要な役割を果たしているというものがあります。食材に含まれる量も微量という事もあるので、気が付かないうちに不足してしまい、思わぬ体調不良の原因となっている事も考えられます。
そんなミネラル類の中でも、最近、特に亜鉛(Zn)の不足が懸念されています。同じミネラル類でもカルシウムや鉄分などは積極的に摂ろうという声は聞かれますが、亜鉛を摂ろうという事はあまり聞かれず、体内では合成する事ができずに食材から摂るしかない事を考えると、常に不足しがちな栄養素である事を意識しておく必要性がある事を感じます。
亜鉛は味を感じるセンサーである「味蕾(みらい)」との関連性が深い事から、亜鉛が不足すると味覚に異常が生じる事があるので、亜鉛不足の弊害は味覚の異常とだけ認識されて軽視される事もありますが、それ以外にも重要な役割を多く担っており、亜鉛が不足すると体内の300種類を超える酵素が活性化しなくなり、病気の予防と回復やアルコールの分解、皮膚の健康や視力の維持、成長ホルモンの機能、老化などにも不具合が出る事が知られています。
また、「疲れやすい」、「視力が落ちてきた」、「抜け毛が増えた」、「貧血気味」、「皮膚がかさかさしやすい」、「爪の伸びが遅く変形が見られる」、「食べ物の味が薄く感じられる」、「怪我の治りが前より遅い」などは亜鉛不足の症状とされ、幾つかが当てはまる場合は毎日の食事の栄養チェックが必要かもしれません。
亜鉛を多く含む食材というと「牡蠣」が思い浮かびます。牡蠣には多くの亜鉛が含まれていて、大粒の牡蠣であれば一つで一日の必要量を摂る事ができます。牡蠣よりも多くの亜鉛を含む身近な食品となると「緑茶」があり、お茶を上手に生活に取り入れる事で亜鉛を摂取する事ができ、その際、ビタミンCを摂っておくと亜鉛の吸収効率が良くなります。
加工食品に含まれる添加物にも注意が必要で、かまぼこの弾力を増したり、清涼飲料水の変色防止などに使われる「ポリリン酸ナトリウム」は、亜鉛を体内から排出してしまう働きがあり、漬物やパン、しょうゆなどに変色や変質を防ぎ、色を良く見せるために加えられる「フィチン酸」には亜鉛の吸収を阻害する働きがあり、亜鉛不足が気になる場合は注意が必要です。
最近、畑の土壌に含まれるミネラル分が少なくなってきているとされ、ミネラル分が少ない土地で育てられた作物に含まれるミネラル類も少なくなってしまいます。食べているつもりでも摂れていない、排出してしまっているなども考えられる事から、常に不足する可能性がある事を意識しないといけなくなっているのかもしれません。
第1693回 工業化ブーム
2011年04月14日
食料の工場生産というとあまり良いイメージは持たれないのですが、昨年の暑過ぎた夏に話題となった野菜工場はクリーンで健康的なイメージがあります。
野菜を畑ではなく建物の中で機械化された環境で生産する野菜工場は、それぞれの野菜に適した環境を人為的に作り出す事が可能な事から、効率的に野菜を育てる事ができるだけでなく、季節に関係なく計画的かつ衛生的に栽培する事が可能であると考える事ができます。
これまで日本では野菜工場のブームは2度訪れたとされ、最初のブームは1980年代とされています。大手スーパーを中心に野菜工場を持つ事によって自社製品の生産に取り組む事が流行した時期で、まるで木のように大きく成長したトマトや当時、使われはじめた光ファイバーを使った採光などが思い出されます。
2回目ののブームは農林水産省によって支援が行われ、いくつかの食品メーカーにおいて自社の製品を生産するために野菜工場が建設された時期とされ、過酷な気候から大幅に野菜不足が言われた昨年の夏が3回目のブームと考える事ができます。
一見、一定の間隔でブームが繰り返されているように感じられますが、その間にも確実に技術は進歩を遂げ、出来上がってくる野菜も大幅に品質が向上しています。
最大の技術革新の一つに野菜という植物に欠かせない照明の進化があり、白熱灯や蛍光灯と比べて圧倒的に電気代が安上がりなLED(発光ダイオード)が使用可能となり、ランニングコストの軽減、最終的な販売価格の低下による市場での競争力の向上があり、野菜工場で作られた野菜が割高で特殊な存在ではない雰囲気作りに貢献しています。
野菜自体も品種改良が行われ、水耕栽培に適した品種の開発によって路地物に敵わないとされた味も遜色のないものへと改善され、強風にさらされる事なく均一に光が当てられる事から、姿も屋外での栽培よりも整った状態で栽培する事が可能となっています。
また、野菜工場に対するイメージも変化し、工場生産、人為的な栽培、高コスト栽培による割高販売といった負のイメージから、外的な環境から切り離す事によって病気や害虫などから隔離する事ができ、無農薬で栽培できるというヘルシーでクリーンなイメージも定着してきました。
農作物の収穫量は畑の面積である程度決められてきましたが、野菜工場では多層化が可能である事から収穫量に関して土地の制約を受けないというメリットもあります。
太陽光や風力などによる発電の効率化やLEDをはじめとした各種設備の省電力化が進めば、農業の工業化はそれほど遠くない将来像となるのかもしれない、そう思えてしまいます。
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